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手元の雑誌を整理しながら考えるブログです。

69回 戦後の『月刊読売』の製本方式と娯楽性(3)

岩田専太郎は、『アサヒグラフ』1948(昭和23)年4月14日号掲載の人物紹介欄「挿絵画家告知板」で、「挿絵は職人絵だから日本で一番立派な職人になりたい」と答えている。『月刊読売』1947年9月号表紙絵の和服女性の横顔は、岩田が他誌に発表してきた表紙絵にも同様の構図があり、繰り返し描いて完成度を追求する岩田の職人的な視線が感じられる1枚になっている。
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岩田専太郎による横顔美女の表紙絵のバリエーション。左:『漫画日本』増刊「漫画と読物号」(1946年4月15日)。中:『月刊富山』1947年1月号。右:『月刊読売』1947年9月号。

前回引用した岩田専太郎のことば(「表紙のコツ」『週刊朝日』1954年3月21日号)は、菊池寛賞を受賞した際に、雑誌の表紙絵を描くときの気持ちを、吉原の牛太郎(客引き)にたとえた発言としてとりあげられたものだったが、以下のように続いている。「それで登楼するか、しないかは、女郎衆の腕次第、きりょう次第ということになる。つまり、表紙でお客をつったら、中味は、編集者の腕次第でさア……」。
『月刊読売』の編集者は、1947年の表紙絵に岩田専太郎を4回起用し、本文挿絵にも毎号のように登場させていたが、「中味」の大幅刷新を、1947年12月号(第5巻第12号)から始める。まず、平綴じ製本の特性を生かして、巻頭にオフセット印刷の口絵4ページを新設し、南義郎・田中比左良・小野佐世男杉浦幸雄という4人の人気漫画家を登場させて、大衆娯楽路線を鮮明にする(本文40ページが普通だったが、この号は48ページ)。
平綴じ製本では、口絵ページを入れる場所は、折り丁の境目であれば可能だから、4ページの口絵を巻頭に入れるのは容易なことだ。読者が表紙をめくれば、すぐに口絵が目に入り、実際以上に豪華に見える(中綴じ製本では、前半部分と後半部分が対称になるので、巻頭に4ページの口絵ページを構成するには、巻末分と合わせて8ページ分の製版・印刷が必要となり、ページ数の少ない時代にはむずかしい)。
ここでは、『月刊読売』が大衆娯楽路線に踏み出した1947年12月号の次号である1948年1月号(第6巻第1号)を紹介しておきたい。岩田専太郎の表紙絵も6回目(これが最後)で、これまでで一番雰囲気のある仕上がりだ。新年号なので本文56ページ、特価25円という豪華版。巻頭の4色オフセット印刷の口絵(「名作のヒロインをえがく」)に、木村荘八鏑木清方伊東深水という人気画家が寄稿している(4ページ目は広告ページ)。また、中ほどに2色オフセット印刷ページを設け、「時事小唄 のんき節」(石田一松)、「豆落語 お正月」(松井翠声)、「詩 台ナシ」(大辻司郎)、「新作いろはがるた ニコニコづくし」(池田永一治・田中比左良)、「時局川柳 ワニ足」(徳川夢声)、「コント ジゲムのケン威」(三遊亭歌笑)、「豆浪曲 アル・カツポレ」(山野一郎)など、小さな娯楽記事満載の4ページになっている。パラパラとめくったとき、この2色刷りページの赤色が効果的だ。
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『月刊読売』1948年1月号(第6巻第1号)。左:巻頭の4色口絵と本文の2色娯楽ページが見える。右:岩田専太郎による表紙絵は、なかなかの出来だが、これ以降、岩田は『月刊読売』の表紙には登場しない。

1948年の『月刊読売』を見て感心するのは、読者が抱く娯楽へのぜいたくな願望(漫画も、美人画も、読み物も楽しみたい)をかなえる努力したことだ。先ほどの1月号では、巻頭4ページの4色印刷に加えて、本文中4ページの2色印刷という構成だったが、この年の半ばには、巻頭に娯楽ページを集中して、連続8ページの口絵を実現する。そして、他誌で活躍している漫画家や挿絵画家、流行作家を、どんどん起用するのである。ただし、オフセット口絵8ページ、活版本文40ページでは、8ページの口絵をすべて4色印刷にすることはコスト的にきびしい。
1948年6月号(第6巻第6号)を見ると、巻頭の4ページは4色印刷(1ページ目の「目次」では黄版を使わずに製版しているようだ)で、「夏姿女三代」を、岩田専太郎、林唯一、高井貞二に依頼している。残りの4ページは藍版抜きの3色印刷で、小川哲男、小野佐世男杉浦幸雄に「お好み色刷漫画 当世裸時代」を描かせている。口絵の最終ページ(8ページ)は、残念なことに広告になっているが、色刷りページの広告は、それなりの収入を見込めそうだ(坂口安吾田中英光も服用したという「熟眠剤アドルム錠」の広告に注目!)。そして、9ページから始まる活版印刷の本文では、木々高太郎「死の設計図」の挿絵に富永謙太郎を起用する。『月刊読売』が打ち出した大衆娯楽路線は、人気者をずらりと並べるにぎやかなものだ。
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『月刊読売』1948年6月号(第6巻第6号)の表紙・裏表紙(右上)から本文9ページ(左下)までを並べてみた。表紙イラスト:松尾正己。目次カット:内藤良治。口絵:岩田専太郎、林唯一、高井貞二、小川哲男、小野佐世男杉浦幸雄。本文小説:木々高太郎、挿絵:富永謙太郎。