戦後グラフ雑誌と……

手元の雑誌を整理しながら考えるブログです。

35回 グラフ誌は、週刊に限る?――『アサヒグラフ』創刊

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25回以降、『毎日グラフ』の表紙デザインから『LIFE』を連想し、『ホープ』や『太陽』に寄り道をしてしまった。特に『ホープ』は、グラフ誌に分類するのは無理な雑誌だ。しかし、『ホープ』に限らず、月刊誌の口絵グラビアには、50~60年後の現在から見たとき、時代を映し出して貴重に思える記事がある。
前回、『太陽』には、同時代をそのまま映し出す企画が少ないと述べた。速報性のない月刊誌だから、時事的性格の強い記事は載せないという方針かもしれないが、事典や全集を軸としていた平凡社という出版社には、新聞社や通信社と違って、ニュース性を追う社風が、もともとなかった。
1959年4月の「皇太子ご成婚」に合わせて、『週刊現代』と『週刊文春』が創刊され、B5判週刊誌競争が激化したのは、『太陽』創刊の4年前である。そのブームのもとで行なわれた座談会で、『週刊新潮』編集長の佐藤亮一が、速報性にこだわる新聞社と、速報性を考えない出版社(ここでは新潮社だが)の社風について触れている。

佐藤 (略)週刊誌は第二報誌であるというのは、扇谷さん(前週刊朝日編集長)か、だれかの言葉だったが、当時しきりに言われていた。しかし、新聞社の週刊誌には速報性を相当もたせなければいけないというお考えが無意識のうちにあったと思う。出版社の場合はそういう考えはもともとないわけですから、速報性を捨てても文芸出版社の持味である一つのできごとの内面を追求してゆけば、おのずからそこに個性みたいなものが出てくるのじゃないかというふうに考えました(「〈座談会〉週刊誌ブームの渦中から」『世界』59年7月号)。

大判のグラフ誌の事情も、B5判の週刊誌と同じだ。戦後日本のグラフ誌は、ほとんどが、新聞社の刊行で、速報性を念頭に置いている。『毎日グラフ』の場合、創刊当初は月2回刊だが、週刊という刊行頻度をめざしていた。52年4月10日から毎週木曜日午後8時半に、ラジオドラマ「君の名は」が2年間にわたって放送され、それがきっかけになって、全国的に週単位の生活リズムが定着した、というユニークな説を唱えたのは、加藤秀俊(週刊誌研究会編著『週刊誌――その新しい知識形態――』三一新書、58年)だ。たしかに、新聞4社の週刊誌(『週刊朝日』『サンデー毎日』『週刊サンケイ』『週刊読売』)がそろったのは、52年秋のことだったし、『毎日グラフ』が週刊になるのも、翌年の53年4月である。週刊というスピードなら、日刊の新聞よりは遅いが、一定の速報性は守れる。大事件に対応して、増刊号も出せる。50年以上前のグラフ誌をめくったとき、スリリングな時代性と史料価値を否応なしに感じるのは、速報性を守ろうとする、新聞社の意識のおかげだろう。

「戦後グラフ雑誌と……」というテーマからはずれるが、戦前を振りかえっておこう。
日本の「週刊グラフ誌」の嚆矢は、1923年創刊の『アサヒグラフ』だ。『朝日新聞出版局史』(朝日新聞社出版局、69年)は、「『ライフ』に先立つこと十二年である」と記している。アメリカの『LIFE』は36年11月23日創刊だから、本当は「『ライフ』に先立つこと十三年」が正しい。じつは『アサヒグラフ』は、東京の朝日新聞社(当初の表記は、株式会社朝日新聞支店東京朝日新聞発行所)から2度創刊されている。
まず、23年1月25日に日刊で創刊された。新聞用紙と同様のザラ紙を使い、厚さ0.09ミリ、表紙とも16ページ。ページ数の多いタブロイド判の新聞だったから、活版輪転印刷機に折畳み機構を接続したというが、写真の網目も荒く、濃度も上がらない(戦後の『サン写真新聞』によく似ている――9回参照)。この日刊の『アサヒグラフ』は、関東大震災当日の9月1日に、220号を出して休刊する。
2度目の創刊が23年11月14日で、今度は週刊になった。写真は格段に高精細で、諧調も豊かになり、濃度も上がった。発行元は東京のままだが、『アサヒスポーツ』や、『大阪朝日新聞』附録である『朝日グラヒック』を刷っていた、大阪のドイツ製グラビア輪転印刷機を使ったからだ。用紙も平滑性のあるグラビア用紙で、厚さは0.08ミリ、表紙とも24ページ。針金で綴じられ、化粧裁ちされて一回り小さく(四六4倍判)なった。「東京で編集・割りつけをし、記事部分を組みつけて清刷(きよずり)をとり、写真原稿に添えて大阪に送り、大阪で製版・印刷して、また刷本(すりほん)を東京に送りかえすという複雑な刊行方法」(前出『朝日新聞出版局史』)をとったというのだ。

画像は上から、 日刊『アサヒグラフ』13号表紙と裏表紙(1923年2月7日、活版印刷)、◆日刊『アサヒグラフ』13号4-5ページ(23年2月7日、活版印刷)、:日刊『アサヒグラフ』13号裏表紙奥付(23年2月7日、活版印刷)、ぁЫ鬼『アサヒグラフ』創刊号表紙と裏表紙(23年11月14日、グラビア印刷)、ァЫ鬼『アサヒグラフ』創刊号4-5ページ、バラック建築の記事(23年11月14日、グラビア印刷)。