戦後グラフ雑誌と……

手元の雑誌を整理しながら考えるブログです。

38回 円熟した3色印刷の魅力

四六4倍判の『週刊朝日』と『サンデー毎日』が、半分以下の大きさの「新体制規格版」(B5判)になったのは、1940(昭和15)年10月だった。『アサヒグラフ』は少し遅れて、41年1月から、ひと回りだけ小ぶりな「新体制規格版」(B4判)になる。
「新体制規格版」になる前の『週刊朝日』と『サンデー毎日』の特徴は、女優の顔をアップにして、はじけるような派手な色使い(オフセット印刷)で迫ってくる表紙である。裏表紙側の奥付近辺を見ると、文字が藍(C)で刷られているのがわかる。墨(K)を使わずに、黄(Y)、赤(M)、藍(C)の3色で印刷されているのである。カラー分解の原理では、YMCの3色で充分だし、透明感を求めるのなら、かえって墨版がないほうがよいのだろう。このころの両誌を手にとると、滑らかな諧調で女性の美しさを強調する、当時の人工着色の技術の高さも、充分に味わえるのである。
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週刊朝日』1940年1月28日号表紙(モデル:戸川弓子・東宝)と40年4月28日号表紙(モデル:霧立のぼる・東宝、いずれも3色オフセット印刷、表紙厚さ0.11ミリ、本文活版0.1ミリ、本文グラビア0.08ミリ)
 
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サンデー毎日』37年4月4日号表紙(絵:林唯一)と39年5月7日号表紙(モデル:羽田登貴子・松竹大船、いずれも3色オフセット印刷、表紙厚さ0.12ミリ、本文活版0.11ミリ、本文グラビア0.08ミリ)
 
週刊朝日』と『サンデー毎日』の派手さにくらべると、『アサヒグラフ』の表紙の色は、ちょっと地味だ。その理由は、墨版(グラビア印刷)を骨格にしているからである。「アサヒグラフ」の題字をオレンジ色に固定し、もう1色を、ほぼ補色の関係になる青緑、緑、緑青、青あたりを使って、カラー印刷の気分を出しているのだから、どうしても色味が足りない感は否めない。スーパーマーケットのチラシなどで、朱と緑の2色を使って、トマト、ほうれん草、肉などの色を表現しているものがあるが、それに近い感覚である。ルーペでのぞいてみると、オレンジ色と緑は、オフセット印刷の網点であり、墨版はグラビア印刷である。そのグラビア印刷のスクリーン形状も、普通の格子スクリーンではないように見える。当時の印刷については、もう少し研究が必要である。
ちなみに、『アサヒグラフ』39年12月13日号の表紙の右下には、「リボンを結ぶ女 カメラ 木村伊兵衛」と撮影者の名前が入っている。
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アサヒグラフ』39年12月13日号表紙(撮影:木村伊兵衛)と40年1月24日号表紙(いずれもグラビア印刷+2色オフセット印刷、表紙厚さ0.11ミリ、本文0.08ミリ)
 
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各誌の奥付部分を見れば、『サンデー毎日』と『週刊朝日』には、墨版が使われていないことがわかる。左から『サンデー毎日』39年5月7日号(3色オフセット印刷)、『週刊朝日』1940年4月28日号(3色オフセット印刷)、『アサヒグラフ』39年12月13日号(グラビア印刷+2色オフセット印刷