戦後グラフ雑誌と……

手元の雑誌を整理しながら考えるブログです。

56回 『YANK』――グラビア印刷とオフセット印刷

LIFE』1945年9月10日号(活版印刷)の大特集「U.S. OCCUPIES JAPAN」のトップページの写真は、厚木飛行場に掲げられたアメリカ国旗がはためくのを見上げる第11空挺師団(the 11th airborne division)の兵士たちである。同じ場所のカットが『YANK』45年10月7日号(CONTINENTAL EDITION、2巻11号、グラビア印刷)に載っているが、国旗の細部や人物に違いがあり、キャプションも「GIs of the Fifth Airborne」となっているので、別の時の撮影なのだろう。
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左:『LIFE』1945年9月10日号(活版印刷)の大特集「U.S. OCCUPIES JAPAN」のトップページ。
右:『YANK』45年10月7日号(CONTINENTAL EDITION、2巻11号、グラビア印刷)トップページ。
 
YANK』は、表紙に「THE ARMY WEEKLY」と掲げているように、米軍の週刊グラフ誌であり、アメリカ雑誌らしく、ピンナップガールのページもある。サイズは『LIFE』と同じ(『アサヒグラフ』のB4判より天地が数ミリ短く左右が数ミリ長い357×262ミリくらい)で、表紙とも24ページだから、『アサヒグラフ』(当時16ページ)に似た手触りと重さの雑誌である。CONTINENTAL EDITION以外に、BRITISH EDITION(こちらのほうが巻数が多い)があり、さらに、日本占領下のTOKYO EDITIONもある。Yank:The Story of World War Ⅱ as Written by the Soldiers によると、1942年6月17日創刊、17ヶ国・地域で21エディションが45年12月まで発行されたという。
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左:『YANK』45年10月5日号(BRITISH EDITION、4巻16号、グラビア印刷)表紙。
右:『YANK』45年10月19日号(TOKYO EDITION、1巻4号、オフセット印刷)表紙。
 
このCONTINENTAL EDITIONの『YANK』45年10月7日号の特集は、日本の降伏と占領であり、爆撃された3都市(長崎、東京、広島)の写真が掲載されているのだが、この号の内容の大部分をそのまま使って、TOKYO EDITIONの『YANK』45年10月19日号(1巻4号、オフセット印刷)がつくられている。同じタイトルの記事では、本文組版をそのまま流用しているが、並べてみると、CONTINENTAL EDITIONでは断ち落としになっているレイアウトを、TOKYO EDITIONでは白フチつきにするなど、微妙に違っている。CONTINENTAL EDITIONもBRITISH EDITIONもグラビア印刷(本文厚み0.11~0.12ミリ)であるのに対して、TOKYO EDITIONはオフセット印刷(裏表紙に凸版印刷の社名が見える、本文厚み0.10ミリ)である。グラビアの印刷物から複写して製版したわけでもない(写真の中の見出しの位置も、トリミングも違う)ので、断ち落としをしない理由は不明であるが、A列、B列に印刷用紙を統一していた日本国内の事情などが影響しているのだろうか(サイパンで刊行されたWESTERN PACIFIC EDITIONや、沖縄で刊行されたSOUTH JAPAN EDITIONもオフセット印刷で、断ち落としをしていない。また、パナマで刊行のPAN-AMERICAN EDITIONは活版印刷であったりと、刊行する地域の事情によって、印刷方式はまちまちである オフセット印刷なので、目を近づけると印刷の網点が見えてしまうが、諧調は比較的豊かである。
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左:『YANK』45年10月7日号(CONTINENTAL EDITION、2巻11号、グラビア印刷)本文。右:『YANK』45年10月19日号(TOKYO EDITION、1巻4号、オフセット印刷)本文。
 
CONTINENTAL EDITIONの『YANK』45年10月7日号の表紙は、戦艦ミズーリでの降伏文書調印式(45年9月2日)の様子である。砲塔の上に、報道関係ではない見物らしい兵士たちも、鈴なりになっているのがわかる。国民性の違いだろうか、厳粛な儀式というより、お祭り騒ぎである(甲板には軍楽隊も控えている)。上のほうを写しこんでいない『アサヒグラフ』45年9月5日号の本文写真(人の配置もほぼ同じ)と比べると、ずいぶん雰囲気が違う。いずれにせよ、9月初旬のまだ蒸し暑い季節に、日本の全権団が着込んでいる服装の暑苦しさと、米軍の制服のスマートさとの落差は印象的だ。
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左:『YANK』45年10月7日号(CONTINENTAL EDITION、2巻11号、グラビア印刷)表紙。右:『アサヒグラフ』45年9月5日号(グラビア印刷)本文。