戦後グラフ雑誌と……

手元の雑誌を整理しながら考えるブログです。

11回 『週刊サンニュース』の啓蒙主義(1)

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『週刊サンニュース』の18号(1948年6月25日)に「読者より読者へ・読者より編集者へ・編集者より読者へ」というコラムがある。いわゆる読者欄だ。5つの注文を書いた投書が載っているが、前半の3項目は以下のようである。

一、表紙があまり内容と合致しない、書店で一見するとエロ本と言ふ考へを抱き易い。
二、長篇小説も良いが頁の制限あるときに二頁四頁と占められると困る。
三、今日の横顔は非常に良いと思ひます映画の紹介はあまり頁を取り過ぎる。

編集者は、こう答えている。

一、これまでは、売り易いという販売上の意図から考えられたのですが、今後は内容とも関連したより良い表紙を考案するつもりです。
二、一般の雑誌には短篇が多く、もつと読みごたえのあるものをとの意見もあつて、長篇小説を連載しました。出来るだけ短い回数でまとめるため又読みごたえのあるように一回の掲載頁を多くとつてあります。勿論、一回だけの読切物も、掲載の予定です。
三、映画紹介は単に映画そのものの紹介だけでなく、一般の常識として、原作者の紹介や種々の解説も加えてあります。

この投書が載った18号は、創刊号と同じ24ページ(表紙とも)だが、表紙裏(表2)、裏表紙裏(表3)、裏表紙(表4)のすべてが広告で占められている。創刊号では裏表紙の下部に小さく広告が入るだけだったから、すでに実質3ページ減である。もったいない、もっと面白い記事にページを割いてくれ――読者は、そう感じていたはずだ。
お金を出して買ってもらう雑誌なのだから、読者に密度感や充実感を感じてもらうことが大事である。ところが、編集者の返答を見る限り、読者のニーズと啓蒙主義との間でバランスを取ろうとしているだけで、「もったいない」という切実な感覚には思い至っていない。
この投書を掲載した2ヶ月後に、『週刊サンニュース』は4ページ減の20ページになるが、方針は変わらないまま刊行は続いていく。

投書の第1項目については、注釈が必要だろう。
48年当時は、真面目な週刊誌――『週刊朝日』と『サンデー毎日』――の表紙を、女性の顔のアップが飾ることは減っていた。とくに、いかにも美女らしい顔は見ることができなかった。その事情を扇谷正造編『えんぴつ戦線異状なし――週刊朝日の内幕――』(鱒書房、54年)は、以下のように説明している。
戦争前は「雑誌の表紙は、すべて美人の顔だった」ので、『週刊朝日』もカラー印刷の美女の笑顔で張り合い、部数競争をした。「だが、その表紙観念をもう一つ飛躍させて、新らしい世界を見出すこと、それが表紙界を新らたに開拓することになるだろう。と、戦後、週刊朝日の表紙が考えはじめた」。「美しさ、には別のアクセントが必要だ」ということで、「猪熊弦一郎だとか、小磯良平だとかいう画家たちの絵が登場することになった」。そして「表紙は人物画でなくてはダメなものか、どうか、という疑問に逢着し」、「昭和23年前後から、人物以外の範囲に進みはじめた」という。
この真意はわかりにくいが、読者におもねって美女の表紙で競争した結果、主体性を失い、戦中には国策雑誌同様になってしまったという反省があるのだろう。読者に媚びへつらうのも、読者を煽るのもやめて、論理的、啓蒙的であるべきだ。媚びるような目つきや扇情的な姿態は封印せねばならぬ、という理屈らしい。
たしかに、戦前の『サンデー毎日』と『週刊朝日』の表紙絵のエースは、志村立美や岩田専太郎だった。しかし、戦後の両誌は、増刊や別冊以外には、岩田を起用することが減ってしまう。理想の女性美を求める岩田の絵には、男性の心をそそるものがあり、それは「危険」なものだったからだ。48年ごろの岩田は、『にっぽん』や『美貌』の表紙を毎号描いていたが、これらは、『週刊朝日』や『サンデー毎日』にくらべると、より通俗的、風俗的な内容の雑誌だった。つまり読者は、表紙の絵柄によって、内容の通俗性の度合いを判断して、買う雑誌を選んでいたのだ。『週刊サンニュース』に投書してきた読者は、美女が微笑みかけてくる表紙の絵柄から、扇情的で低俗な内容を連想・想像し、「エロ本と言ふ考へを抱」いたのである。

画像は、 А崙票圓茲蠧票圓悄ζ票圓茲衒埆玄圓悄κ埆玄圓茲蠧票圓悄廖惱鬼サンニュース』18号(1948年6月25日、オフセット印刷)。◆Г△い泙い僻偰个罵兇辰討い襪噺躄鬚気譴襦福)表紙――『週刊サンニュース』8号(48年1月29日)と9号(48年2月12日、ともに2色オフセット印刷)。:同じく微笑で誘っていると誤解される表紙――『週刊サンニュース』14号(48年5月10日、撮影:木村伊兵衛)と16号(48年6月5日、撮影:木村伊兵衛、ともに4色オフセット印刷)。ぁЦ躄鬚気譴訖看曚里覆ど住罅宗宗惱鬼朝日』48年7月4日号(絵:小磯良平、B5判、4色オフセット印刷)と『サンデー毎日』48年7月4日号(絵:鈴木信太郎、B5判、4色オフセット印刷)。