戦後グラフ雑誌と……

手元の雑誌を整理しながら考えるブログです。

15回 『週刊サンニュース』のカラー表紙

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2006年の終わりに、東京・一番町の「JCIIフォトサロン」で、〈『週刊サンニュース』の時代――報道写真と「名取学校」〉という写真展が開かれ、木村伊兵衛、藤本四八、小柳次一、三木淳、稲村隆正、薗部澄、小島敏子、長野重一の諸氏が『週刊サンニュース』の仕事で撮影した写真のニュープリントが展覧された。同時に地下の「JCIIクラブ25」では、『週刊サンニュース』のほぼ全冊が展示されていた。JCIIライブラリーの所蔵物だが、貴重書のため、通常は公開していないものだ。『週刊サンニュース』がこれだけ並ぶのは初めてのことで、大変興味深い展示であった。展覧会図録には、表紙がカラーで並んでいるので、参考になる。ただし、解説に「ザラ紙に水性インクという悪条件」と記述されているのは、大いに疑問である。平版オフセット印刷は、油性インキと湿し水の反発を利用するものだから、グラビア印刷活版印刷のように水性インキを使うのは、原理的に無理だからだ。
この展覧会で明確になったのは、表紙のカラー印刷が、12号(1948年4月15日)から始まっていることと、オフセット印刷だった本文が、刊行途中からグラビア印刷に変更されていることだった。三神真彦『わがままいっぱい名取洋之助』(筑摩書房、88年)は、8号(48年1月29日)の表紙写真について「はなはだ戦後風俗的なカラー写真」と記述しているが、実際には創刊号(47年11月12日)から11号(48年4月1日)までの表紙は2色印刷であり、12号以降の表紙がカラー(4色印刷)になるのである。そして、24号(48年8月30日)あたりから、本文がグラビア印刷に移行し、諧調も豊かに濃度も増すが、表紙はオフセット印刷のままである。また細かく言うと、2巻1号(48年11月5日)の表紙はカラー(4色印刷)でセピア色を出しているのだが、2巻2号から2巻5号までは、スミと茶色のダブルトーン(2色印刷)でセピア色に仕上げて、節約をしている。
戦前の40年ごろまでは、この手の大判(当時はB4判ではなく、四六4倍判だが)の雑誌の表紙は、人工着色のカラー印刷(たいていは、スミ版抜きの3色印刷)が盛んだった。しかし『アサヒグラフ』は、戦争末期に表紙もモノクロになって以降、カラーの表紙は復活しないままでいた。47年秋の25周年記念号で表紙を1度カラーにしただけで、本格的なカラー移行は49年1月から毎月1回(こちらも本文グラビア印刷で、表紙のみオフセット印刷)というペース。後発の『毎日グラフ』は、『週刊サンニュース』休刊後の49年9月1日号からカラーの表紙を数回続け、その後は毎月1日号をカラー印刷(スミ版抜きの3色グラビア印刷)にしている。
『週刊サンニュース』の表紙カラー化は48年4月であり、それも毎号続けてなのだから、大判雑誌としては相当早いのは確かである。ライバルの『アサヒグラフ』も、この点に関しては、脅威を感じていただろう。

ちょうど49年に、大宅壮一は『毎日グラフ』の「写真時評」で、雑誌のカラー時代を語っている。
「オフセットならまだいいが、グラビアでは俗悪なペンキ絵のようなものになりやすい。二、三号前から本誌の表紙などに試みられた色彩写真もその類いであつた。ただ私たちがこれに興味をもつたのは、高速輪転機で刷られていること、従来の人工着色でなくて、色彩写真原板から製版していることだ」(「写真時評」『毎日グラフ』49年11月15日号)。
『毎日グラフ』創刊号(48年7月1日)には「富士カラーフイルム」の広告が載っているし、『カメラ』49年1月号には「カラーフィルム撮影の苦心を語る」という座談会が掲載されているので、カラーフィルムの実用化が急速に進んだのが、49年頃であるということが分かる。
大宅が「ペンキ絵のようなもの」と評した『毎日グラフ』の表紙は、グラビア印刷の特徴というべき深い色調で印刷されているが、いかにも派手すぎる。それに対して、『週刊サンニュース』の表紙写真は、唇や頬の色がわざとらしかったり、輪郭がはっきりしすぎたり、滲んだ色彩だったりで、人工着色だったと想像される。50年代半ばの『読売グラフ』の表紙では、3色分解撮影が1度にできるワンショット・カメラを使ったことを注記したものがある。セットで重さ12キロ、価格は100万円で、全国に10台ぐらいしかない、と書かれている。その場合の仕上がりも、唇がやけに赤かったりして、人工着色との区別は難しいことがある。もちろん『週刊サンニュース』でも、印刷所に持ち込める岡部冬彦の絵(たとえば20号、25号)は、製版カメラで分解されているから、人工着色に比べると色彩はぐっとリアルである。

画像は上から、 Э郵着色・オフセット印刷の『週刊サンニュース』18号表紙(1948年6月25日、撮影:木村伊兵衛)と、カメラ分解・オフセット印刷だと思える25号表紙(48年9月10日、絵:岡部冬彦)。◆А惱鬼サンニュース』2巻1号(48年11月5日)の表紙はセピア色だが、カラー印刷(4色オフセット印刷)であるのは、裏表紙(表4)の広告がカラーであることでも明らかだ。:『週刊サンニュース』2巻2号(48年11月15日)は、スミ版と朱色の2色オフセット印刷。当然ながら裏表紙(表4)の広告も、スミ版と朱色の2色である。ぁДラーオフセット印刷になった『アサヒグラフ』49年新年特大号と、スミ版抜きの3色グラビア印刷で「ペンキ絵」風になっている『毎日グラフ』49年9月1日号(撮影:二村次郎)。